CADの設定項目

CADの原則のなかでは原寸作図という概念が重要です。
原寸作図とは現物製作のことです。
つまり直接マウスでものを作るということです。
図面を描くことを捨て、実物を作ることに専念するともいえます。
プリントアウトする図面はCADの原寸作図(ヴァーチャル空間)の一種の投影図です。

【輪郭線】

図面とは本来は絵(イメージ)です。
音楽の楽譜のように、ひとが理解しなければ音でも構造物でもあり得ないものです。

図面の話をします。
側溝や擁壁の断面図のようにふつうの図面は輪郭線でモノを表しますが、
この輪郭線は図面だけにあります。
モノ自体は線などはもっていません。

輪郭線は絵を描くときの便法のひとつです。
そんなものあたりまえと思われるかもしれませんが、決してあたりまえではありません。
特殊なことです。

例えば3Dレンダリングは輪郭線を持ちません。
イラストもIllustratorのようなソフトは面塗りで表します。
写真はその最たるモノです。
油絵もそうです。
南フランスのショーベ洞窟の壁画は線画ですが、高松塚古墳の壁画は塗画です。
一般にウシやリンゴなど簡略してもだれでにもわかるモノは線画で、
風景や「高貴さ」などのように理解しづらいモノは塗画が向いているようです。

ですから輪郭線でモノを他人に伝えるには、互いにそのモノについての共通理解が必要です。

そもそも図面を一瞥して、輪郭線でものを把握できる人は一種の専門家です。
よくバイパス道路の平面図をもって地元説明に回っていて気がついたことがあります。
それは図面を色塗りしないとなかなか一般の人には分かってもらえないということです。
丁寧に描いた1/250位の詳細平面図ですら、そのままでは土地の人に理解してもらえないのです。
自分の土地や自宅が描かれているにもかかわらず、ひとめでは判別できない人が多かったように思います。
もちろん説明すればすぐわかってもらえましたが、みなれない輪郭線そのものは、
素人にはただの模様のように目に映っているようです。

【モデリング】

CADの原寸作図はヴァーチャル空間と申しましたが、
より極端に言うと現物製作(モデリング)そのものです。
製造業の場合とくその傾向が強いようです。
CADデータさえ出来てしまえば、
ラピッドプロトタイピングとかNC加工機とかで実物がプリントアウトできるからです。

実物を作っているのですから絵画である図面とは本質的に違います。
CAD図形は輪郭は持ちますが、輪郭線は持ちません。
禅問答のようですが、物理現象のことをいっています。

現実にモノの境界には輪郭線は引かれてなくて、あるのは物質と空気との境界面です。
ここをはっきり区別するのがCADです。

実例で申しますと、CADでの土地境界線はデータとしては直線データなのです。
なんだやっぱり線かと思わないでください。
線の定義がちがいます。
直線とは「長さがあって幅を持たないモノ」です。
幅を持つモノは面なのです。
CADで線はLine(X0,Y0,dX,dY)で表されますが、ここに線幅の情報はありません。

つまり平面図などのCADデータは、
ただ単純にそのものをディスプレイ表示やプリントアウトとかしたとしても、
ただの白画面や白紙があらわれるだけなのです。
直線は幅を持たないので表現されないのです。
それが純粋数学の幾何空間です。
考えてみれば音楽CDだっておなじようなことで、
こういった純粋数学の事例は日常に溢れています。

これがCADの本質です。
実際にディスプレイ上や出力図面に線や図形が描かれているのは、
ソフトがCADデータを適当に加工しているからなのです。
ただこの加工は便宜上のモノです。
なぜなら実物に輪郭線がない以上、実物そのもののCADデータにも
輪郭線が設定されると困ったことになるからです。

もし図面のようにボルトに0.3ミリの輪郭線を作ってしまったら、
CADの実物出力(ラピッドプロトタイピングなど)は
0.3ミリ厚のフィルムでコーティングされたボルトを作ってしまいます。
輪郭線を物体にとして作ってしまうのです。

ことは製造業の話にとどまりません。
土木でも同じです。

さきの土地の境界線ですが、1/250の丈量図で0.3ミリの線幅は現地では7.5cmの帯になっています。
では、この帯はいったいだれの土地なのでしょう。
もちろんこの線は便宜上の境界線であり、
ほんとうは境界点の間を結んだ直線が境界だということはだれでもわかっています
そのあたりまえのことをコンピュータにわからせるのがCADなのです

ですから、線幅などのよけいな装飾は省かなければなりません。
CADでは図面ではなく、ほんとうのこと、
実物(モデル)を扱わなければならないというのはこうしたことです。

【インターフェース】

図面は一種の「ことば」ですが、CADデータは製品そのものなので、
みかけはともかく本質はだいぶ違ったものなのです。
製図者にとっての問題はこのなまのCADデータにあります。

さきにお話ししたようにCADデータそのものは真っ白な画面を出力するただの座標値の集まり、
ただの0と1との羅列に過ぎません。
とても人の扱えるデータではないのです。

本来イメージであるところの図面と成果物そのもののCADデータとを
つなぐCAD機能がインターフェースとよばられるものです。
ここでの「設定項目」とは、そのインターフェースを自分専用にカスタマイズ(設定)する機能です。
特に設定しなくても直線に極細幅を持たせたり、
カーソル座標を基準点(×点)にスナップさせたりする機能です。
別のことばで言えば、幾何の作図操作でCADデータを作る機能とも言い換えられます。

この幾何作図インターフェース(線画作図方式)は輪郭線でお話ししたように
唯一絶対の作図方法ではありません。
じつはこういったインターフェースをまったく使わずに、
直接データそのものを操作する方法もCADには備わっています。
Line(X0,Y0,dX,dY)やArc(X1,Y1,X2,Y2,Angle0,Angle1:REAL)などの
プログラムで図形を記述する方法です。

なんだかとってもややこしそうですが、モノによってはこちらのほうが便利なこともあります。
数千点にもおよぶシーマフォーマットの地形・地物の測点データを管理する場合などです。
この製図方法は高速なエディタソフトが使えるのがなんといっても魅力です。
CADデータも一種のプログラムデータなのですから、
C言語やBASICなどとおなじようにエディタソフトを使って効率的に作成できます。

具体的な効率向上は検索・置換機能が速いことです。
図面をテキストで記述してゆくわけですからとんでもない図形が描かれている可能性もありますが、
効率はそんなに悪くはありません。
いちどためしめみてはいかがでしょう。

【CADの設定】

この福笑い流で紹介しているCAD機能の半分以上がインターフェース関連の機能です。
また、マニュアルでもCAD本来の作図、加工の機能よりも先に位置づけいています。
それは、CADではインターフェースの設定が、
本来設計の業務である作図や加工よりも重要かつ、使用頻度が高いからです。

これも、一般の常識とは大きく異なっています。
ふつうCADというと線を引く道具と思っている方がおおいのではないでしょうか。
でも図面ばかり作っているCADオペレータのような自分でさえ、
直線コマンドをクリックすることは日にそう何度もある出来事ではないのです。
Mac系CAD作図方法の特殊性もあるでしょうが、
ほかのCAD使用者の方も実際に使っている機能のほとんどは画面操作のはずです。

また、広く一般のCADソフト利用者となると、いつもはただ図面を閲覧するだけで、
線を引いたことなど講習会でだけしか経験したことがないという方も多いとおもいます。
いや意外にそういう作図経験なしの、閲覧・確認使用者が大部分ではないでしょうか。
だいいち一度発注図面として承認された工事設計データを、そうおいそれとは修正できないはずですし、
勝手に線を加えられたりしてはそれこそたいへんです。

考えてみれば大多数のCAD利用者にとっては、作図のほうが特殊な使用方法であって、
日常業務の閲覧とかプリントアウトが利用の中心になるのは当然の成り行きでしょう。
つまり、作図機能よりも、まず設定や画面項目を先に理解すべきだと言うことです。