シンボル図形

【他からCAD図形を借用する機能です】

よく聞くCADのセールス話として、CADだといちから図形を作図しなくても、
誰かの作った図形データをライブラリーからコピーできるという使い方があります。
たしかにパソコン操作では頻繁にコピーを使います。
作図中なら単純な直線でさえコピーペーストして使っているほどですから、
道路側溝などの二次製品などは一度作図すれば、たいていはそれを使い回します。
こういうことはおよそCAD利用者ならだれでもやっていることです。

ここでいうシンボル図形とは、そういったコピーペーストを効率化する手段のひとつです。
シンボル図形とふつうのコピペとどこが違うかといえば、
図形がファイルに部品登録されるという点です。
図形をシンボル化すると、例えそれがもとは線の集まりであろうと
ひとつのオブジェクト(グループ)となります。
福笑い流でいうカードのようなものです。
そして名前がついて、ファイルに登録されます。

ですから図形にシンボル登録の操作をおこなうと、
もと図形は画面から消えてなくなってしまいます。
最初は、あれっ!とか驚いてしまいますが、原理としては間違っていません。
どういうことでしょうか。

水田記号で説明します。
まず地形図にたくさん配置するため地形記号として水田記号を作図して、
図面上でシンボル登録したとします。
登録したシンボルは、クリックひとつで図面上に配置されるので、たくさんのコピーも簡単です。
さて、このシンボルを配置した地形図を出力するとき、
黒線では表現がキツ過ぎるので水田記号をグリーンに変えることにしました。
図形選択マクロを使って数十個の水田シンボルを一括選択すれば、
あとはまとめて線属性をグリーンに変更するだけです。

さて、この時点でもとの水田図形が図面に残っているとエラーが生じるのです。
つまり元図形はシンボル図形に変換されていないので、グリーンに色が変わっていないのです。
水田記号をシンボル図形として登録した以上、
シンボル図形でない水田記号が残っていると困るのです。

福笑い流ではそれぞれの図形に属性やら名前やらなにやらの役割を持たせています。
なんの役割もあたえられていない図形が、
あたかも役割を持っているかのように図面に載っかっていては迷惑なのです。

色が違っているくらいならまだしも、
たとえばシンボル図形をデータベース機能で個数計算していたとしたなら
数量計算結果が間違ってしまうところでした。
福笑い流では図形のオブジェクトとしての役割を期待しているので、
こういったところにも注意を払う必要があるのです。

図面だけできてればいいというのが製図ソフト。
事業全体に責任を負うのがCADです。

【オブジェクト指向】

シンボルはオブジェクトのように取り扱われます。

CADではオブジェクト指向といって、
これまで製図してきた点や直線や図形のかわりに直接モノを扱うようにかわりつつあります。
たとえば二次製品のVS側溝を考えてみます。

この製品は側溝と名が付いていますが、ボックスカルバートに穴が開いたような水路です。
これまでの開水路型側溝とちがい、現場あわせが難しい製品です。
開水路だと現場あわせが簡単でした。
屈曲部で内側と外側にズレがでても、コンクリートの現場打ちですり付けができました。

これがVS側溝だと、接続部の上面がくさび形に開いているのでコンクリートが回らないのです。
だいいち内型枠に支保工を組まなくてはならないのに
50cm幅くらいでは作業員が入ることも容易ではありません。
原則としてVS側溝は現場あわせができないのです。
合うように現場でカットするという手荒い手段もありますが、
接続部がキレイにつながらないのは同じです。

こういう場合、あらかじめ接続角度がわかっていれば工場で特注品をつくってもらいます。
指示するのは角度だけではダメです。
一般に屈曲部は規格長さ2.0mに端数が付いているからです。
端数部の長さが10cm違えば角度が2度くらいは狂います。

こういった場合はCAD上で接続部分を設計します。
平面図上で各VS側溝ひとつひとつを配置してゆき、
接続部の角度と、特注品の端数長さを決定するのです。

このデータをメーカーに渡すと、
工場の設計担当が配筋変更とか端部の応力確認とかの処理をおこないます。
もうこの時点でこのVS側溝の端部材のデータはただの線などではありません。
データで送ったとおりのものが現場に発送されてきて、所定の位置に据え付けられるからです。

現場でつなぎが合わなかったりしても、もう手遅れです。
特注品は唯一その場所でしか使えないからです。
こうなると返品も流用もきかず、買ってきたものをただ廃棄するしかありません。

データとは部品そのものです。
これがオブジェクト指向の本質です。
なお実際にVS側溝を設計される場合はよくメーカーと相談してください。
ボックス部分(閉口部)があまり狭くなると強度が不足しますし、
案外縦断の屈曲も見抜かったりするからです。

【シンボル】

オブジェクト指向とはもともとデータベースの考え方です。
CADもある意味データベースのひとつとも考えられますので、
一般のデータベースと同じように複数の表示(ブラウズ)形式が用意されています。
CADの一般表示(ブラウズ)形式は2D図面上もしく3Dモデル空間上です。

ほとんどのデータがこの図面表示画面で表されます。
CADのデータでありながらこの操作画面上に現れない図形データはないはずなのですが、
シンボルやハッチングなど登録型のデータの場合は
かならずしも直線データなどのようにはっきりした形で画面上に現れてきません

こういうデータには、別途管理システムが必要です。
VectorWorksではリソースパレットやオブジェクトパレットなどがこの別途管理システムにあたります。
シンボルやワークシートなどの登録データは、原則として全てこのリソースパレットで扱います。
シンボル図形の場合はこれとともにオブジェクトパレットという箱も用意されていて、
アイコン表示で選べるようになっています。
オブジェクト指向の場合、このようにCADデータが図面画面以外でも
表示(ブラウズ)されるのが特徴です。

このほかに、別画面の事例として測量業務用ソフトの座標点管理用画面などもあります。

【二次製品の利用】

VectorWorksには頭の中がこんがらがるほどの部品管理フォーマットがあふれています。
クラス、データベース、シンボル図形、ハイブリッドシンボル、
プラグイン図形、文字のはいったシンボル、などなど。
おぼえきれませんよね。
土木ではほんと使わない機能ばかりが溢れています。
これはこのCADソフトが建築産業という
飛び抜けて多品種の部品を扱うレイアウト産業に特化しているからです。
これら数万から数十万点の部品を扱う建築部門と、
おもにコンクリートしか扱わない土木部門とは全く性質が違います。

部品数の違いはCADの使い方にも影響します。
じつは自分の場合、シンボル以外ほとんどこのソフトの部品機能を使ったことがありません。
このページでも紹介しているシンボル選びに便利なオブジェクトパレット。
これ、仕事では使ったことがないのです。

なにもパレットの機能が不便なわけではありません。
どんなすばらしい機能でも土木では使う用途がないのです。
土木では基本的に土とコンクリートとアスファルトと鉄筋の4つしか取り扱いません。
しかも9割以上が土とコンクリートですし、どちらも工業製品ではありません。
土木は基本的に一品生産です。
二度と同じモノを作らないのにその図形を登録する意味があるでしょうか。
土木にはVectorWorksに用意されているほどの部品管理機能は必要ないのです。

とはいえ、最近は環境部門を筆頭に次第に二次製品の利用が進んでいます。
二次製品とはCADでは部品のことですから、
これからは土木でもこういった部品管理機能を利用してゆくことになるのかもしれません。
河川や公園や港湾などのこれまで公共の場であった施設にまで、
個人のガーデニングなどのエクステリア化が浸透してゆけば、
おのずと土木の取り扱う部品数も増えてくるというものです。

シンボルはフェンスなどのエクステリア部品や二次製品の利用に便利です。
どういうわけだか公共事業では二次製品の利用がすすみませんが、
アマチュア土木というものがもしあれば、
それはほとんど二次製品で構成されることでしょう。
将来はこれらシンボルも土木での使い道が出てくるかもしれません。