ワークシートの活用

【簡易な機能】

図面には土坪算出表、座標一覧表などの数表を張り付けることがあります。
Windows系のCADではExcelの表を直接張り付けているようですが、
このワークシート機能そういった数表をCAD内で作成する機能です。
ただしExcelとあまり比べないでください。
このワークシートは機能としてだいぶ劣っていますから。

まず反応が遅い点が第一の欠点です。
Excelの速さは特別ですが、このワークシートでは処理していることがわかるほどに遅い。
つぎに罫線が一種類しかありません。
線幅も破線も線色も変えられません。
離れたセルは一緒には選択できません。
などなど、とても羅列できないくらいに機能が違います。

【基幹CAD】

でもこのCADに限らず、
そもそも市販ソフトでExcelと比べられるようなソフトがあるでしょうか。
以前雑誌でデータベースのFileMakerと比較した特集が組まれたことがありました。
なるほど比較対象がデータベースソフトであれば優劣を競えるでしょうが、
こと数値データ管理ではExcelより効率的なソフトは存在しないのではないでしょうか。

となると、いっそのことExcelを基幹CADに据えてはどうか、という考えも成り立ちます。
これは決してジョークではありません。
現に、おおくの中小の建設企業ではExcelなどの表計算ソフトで座標管理してきました。
VectorWorksのようなGUI系CADソフトの利点は図面も印刷できて、
設計計算などのデータ管理も画面(GUI)で操作できるという利便性はありますが、
そのためにまわりくどくなっています。

ソフトの習得に時間がかかり、このCADシステムを完全に導入できたとしても
はたしてそれで生産性があがるかどうかは確かではありません。
よくマクロ経済で話題になっている生産性のパラドックスです。
これに対し、Excelを基幹CAD(設計施工の支援ソフト)として活用すると
各段に処理速度が速くなります。
ひとの体感速度を超える程度の処理能力ですので、パソコン処理の待ち時間がなく、
データを全て数量で一覧表示させるので図面をいちいち開く必要もありません。

図面も表示できないのに仕事に使えるかという意見もありますが、図面は現場に劣ります。
いいかえると、現場にそのまま製図すれば図面はいりません。
トランシットや鋼巻き尺は、現場に作図するための製図用具なのです。
平面図や横断図といった図面類は工学の必需品のようにおもわれていますが、
現場の地形地物が完全に頭の中でモデリングされている技術者にとって、
そういった低精度の図面は補助的な役割しか持ちません。

現に工業化社会までの長い間、技術とか構造とかは訓練や修行で身体に覚えこますものでした。
技術者の頭脳それ自体がCAD(モデリング空間)だったのです。
紙の図面は昔からありましたが、設計製造にはあまり関わっていませんでした。
担当者のモデリング能力がCADソフトのそれを上回っていれば、
まだまだExcel(補助計算機)のほうが優れているようです。

【数値系CAD】

VectorWorksやAutoCADなどがヴァーチャル空間で作業をおこなうGUI系CADとするなら
Excelは数値制御のみでデータ管理を行う数値系CADといえます。
だいぶ前から現場で使われているポケコン測量計算も数値系CADのひとつです。
安くて簡単、しかも生産性が高い。
どうも土木では数値系CAD(Excel)に分があるようです。

現場や導入率においてもこれまではその比較にははっきり優劣が付いていました。
つまりExcelなどの数値系CADが導入率や生産性で優位にあったのです。
だからどの中小業者もポケコンなどの数値系CADを導入して仕事をこなしてきました。

でもこれからはどうでしょう。
これまで再三述べてたようにExcelの最大の長所はその速い反応速度です。
体感不能なほどに素早い処理が高い生産性もたらしてきました。
おそらくこれからも速度面、生産性ではGUI系CADを凌駕してゆくことでしょう
でもそう遠くない将来、逆に数値系CADのほとんどがGUI系CADに置き換わっているはずです。
というのもこの数値系CADにはおおきな欠点があるからです。

たとえば、それは経験のない技術者が扱うと桁違いの結果を出してしまいかねない
という危険性にあらわれています。
数値のみで操作するので、計算の勘違いとか入力ミスとかに弱いのです。
これまでは手計算で現場を管理してきた古参の技術者が数値系CADを使っていたので
問題とはならなかったのですが、これからはそういう好条件は期待できません。
なんといっても数値系CADは扱う技術者に豊富な経験とともに
高いモデリング能力をも要求するのですから。

測量地形図の場合を考えてみます。
数値系CADではなんと言っても技術者が
サイン・コサインの三角関数に精通していなければなりません。
また手書き製図では烏口もしくはロッドリングペンを扱って
等高線のような自由曲線が引けることが条件です。

専門的知識のおおくがコンピュータのデータベースに置き換わっている現状では、
これらの技能もGUI系CADに置き換えられつつあります。
機械(コンピュータ)の性能はこれからも向上しますが、人間の性能は頭打ちです。
いつかは追い抜かれます。
将来性はGUI系CADにあるのです。

【GUI系CAD】

いまのGUI系CADの特徴は「初心者用」というひとことで表すことができます。
つまり本物のプロには必要のない道具なのです。
機械で出力される無味乾燥な図面は、とうてい熟練のトレーサーの表現力にはおよびませんし、
簡単な図面は手描きが便利です。
へたにCADの精密な図面を使いだすと、やたら細々としたことを決めなくてはならなくなるので、
かえって手間ばかり増えるのも確かです。
境界点の座標管理、降雨による流出流量計算、道路中心線計画などなど、
GUI系CADのヴァーチャル空間を動き回って設計していると
まどろっこしくて仕事にならないというベテランもおられるでしょう。
仕事も遅い、見栄えも悪い、なのになんでCAD(GUI系)にかえるんだという苦情もごもっともです。

でも楽チンです
それはGUI系CADを習得すれば実感できます。
楽チンでいいのか
楽チンのどこが悪い
いろいろ意見はあるようですが、
ちまたで議論になっているような経営だとかITだとかというトレンドと、
仕事に使うCADの選定とはまた別物のようです。

【データ交換】

Excelとのデータ交換を利用します。

図面で表計算したいまたは罫線表示させたいというとき、
このワークシート機能のかわりにExcelそのものを使うという選択肢も十分検討に値します。
Excelはパソコン史上最強のソフトなので、それを利用しない手はありません。
つまり本計算にはExcelを使って、印刷用にVectorWorksにデータをもってくるという方法です。

VectorWorksではExcelとの連携を1)表計算形式、2)図形形式でサポートしていますので、
どちらかを使うことになります。
どちらを使うにしろコピー&ペーストで張り付けられます。
ペースト先がワークシートなら表計算形式、図面上なら図形形式という具合です。

図面上に張り付けると修正がやっかいです。
おもには表計算形式を使う場合が多いでしょう。
でも、そのまえにもっと基本的な事項を決めておかなければなりません。

【計算結果出力ソフト】

そもそも数量算出図面をCADで出力するのか、
Excel(表計算ソフト)で出力するかということを決める必要があります。

表計算ソフトで出力する利点はなんといっても作業が素早くなるという点です。
Excelの処理スピードと安定性は抜群です。
反面、CADソフトで出力する利点は図面スペースを利用できると言うことです。
図面と見比べることが出来るので検算や検測になにかと便利です。

自分としては図面がはいる書類はできるだけCADソフトで印刷するという方針でやってきました。
つまりExcelデータを利用しても出力はおもにCADソフトを使うということです。
理由のひとつにExcelなどのCADソフト以外のプログラムで図形を印刷すると
若干プリント精度が落ちると事情があります。

Mac系CADは一種イラストソフトなのでそれ自体優れた印刷機能を持っているのですが、
これがほかの例えば表計算ソフトなどにコピペされた場合には
その印刷機能が働かなくなって図面の見栄えが落ちるということになります。
おおむねCADソフトで出力するのが適当なのですが、
数量計算書が薄くなって設計書の体裁を悪くしています。

【数量計算書】

GUI系CADが楽チンなのは幾何作図で操作するからなのですが、
これは検算がしにくいという欠点もあります。

工事検査とか会計検査とかの検査にはいくつかの目的があります。
不正防止、構造物の善し悪し、計算ミスなどがおもなものです。
会計検査の主眼は不正防止にあり、世間の公共事業批判の焦点はモノの善し悪しです。
どちらもCADでは扱えませんので、ここでは計算ミスについて検討してみます。

以前は会計検査対策として、よく数量計算書のチャックといって
電卓で単価表や土坪計算書の数値を叩いていたものでしたが、最近はあまりみかけません。
みんなコンピュータでデータ管理されているからです。
むかし電卓でチャックしていたのは、キーのミスタイプや数値の書き取りミスを確認するためでした。
これらも多くはコンピュータの役割となっていますのであまり意味がなくなっています。
たとえばCADで打ち出した土坪計算書でかけ算や足し算が間違っていたとしたら、
それはソフトのバグであって、職員の計算ミスとばかりはいえません。

Excelなどは計算式を打ち込むので、割と計算間違いがあるのですが、
CADの数量計算システムはプログラムされているのでほとんどそういった単純ミスはありません。
計算書がおおく出力されていてもあまりチェックとしての意味がないのです。
汎用CADで土工断面積などの数値を拾った場合など、この計算書すらも出力されません。

CADではこれまで述べているように原寸図、現場モデリングそのものなので、
CADを検算するとは図面(原寸図)を検算するということになります。

こうしてみると検算とはもともと代数計算のためにあったチェックシステムだとわかります。
代数は精密な数値が算出されて便利な反面、
単なる数字の羅列なのでそれが正しいかどうかがわかりにくかったからです。
近年、CADによってこれら数字の羅列が、精密な原寸図に置き換わりました。
これによって再度同じ計算を繰り返すという、これまでのようなチェックは必要なくなったのです。

GUI系CADのミスの例としてスナップミスがあります。
底辺と前面とがわずかにずれたりしているものですが、
多くの場合寸法やデータパレットに端数値がつくので見分けられます。
GUI系CADでは工事データをヴァーチャル空間上に具象化しているので、
ヴァーチャル空間内でおかしくないほどの食い違いなら、
それは現場でもそう大して影響するミスではないのです。

だいたい検算というもの自体、代数計算のように
桁違いのとんでもないまちがいをやらかす可能性のある計算方法に必要なのであって、
GUI系CADのように現物そのものを再現している計算方法には意味のうすい概念なのです。
基幹CADでは毎日のダンプ台数、生コン伝票、搬入資材なども
それぞれ並行して調整・管理していますから、それらをすり抜けるバグもないでしょう。

意味の薄くなってきた検算業務ではありますが、
まず最初に検算の目的を確認することが重要だと思います。